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大阪高等裁判所 昭和35年(う)264号 判決 1960年10月22日

控訴人 被告人 范徳鐘 外一名

弁護人 横田静造

検察官 十河清行

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人らの弁護人横田静造の提出にかかる控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

弁護人の控訴趣意第一点について、

原判決がその各判示事実に対する証拠として六五個の標目を一括羅列していることは所論指摘のとおりである。しかし刑事訴訟法第三三五条によれば、証拠はその標目を掲げるを以て足り、如何なる証拠により如何なる事実を認定したかを明確に挙示する必要もなく、又その判示事実が数個に亘る場合と雖も、一々その判示事実別に証拠を挙示することを必ずしも必要とするものではない。たとえ一括して証拠の標目を掲げてあつても、各判示事実の証拠の標目として識別し得る程度のものであるならば、もとより証拠の標目の挙示に欠くるところはないものと謂わなければならない。今所論に鑑み、原判決挙示の証拠の標目につき、その内容を原判示事実と対照しながら逐一仔細に検討するに、右証拠の標目中には原判示各事実に通ずるものもあり、各別に係るものもあるけれども、それぞれの内容を原判示事実と比照検討すれば、優に右各判示事実に対するそれぞれの証拠の標目として識別し得られないこともない。さすれば、原判決がその判示事実に対し掲げた証拠の標目には何等違法は存しないと認められるから、所論は採用しない。論旨は理由がない。

同第二点について、

しかし関税法第二条によれば、輸出の許可を受けた貨物を本邦に引取ることは輸入に該当するのであるから、たとえ被告人らが本件毛織物につき原判示の如く真に外国へ向け輸出する意思がなく、からくりによつて更に引取る計画であつたとしても、いやしくも当該税関に対し該毛織物につき輸出の申告をなし適式の貨物検査を受けてから、当該税関から輸出の許可を得て、該貨物を保税上屋に搬入した以上、爾後その貨物は所謂外国貨物として取扱われ、現実に外国へ向け船積しなくとも、当該税関の許可なくしてこれを保税上屋から引取ることは、とりもなおさず右関税法第二条に所謂輸出の許可を受けた貨物を保税区域を経て本邦に引取ることに該り、従つて関税法上の輸入に外ならないのである。所論は被告人らは右の如き意図の下に虚偽の輸出申告をしたものであるから、虚偽申告罪が成立するは格別、これに対する当該税関の輸出許可は無効であるから、輸入には該らないと主張する。しかし被告人らにその主張の如き意図があつたからとて、当該税関の輸出許可はその取消がない以上当然無効となる筋合ではない。又所論は関税定率法第一四条第一〇号第一四号の法意からするときは、本件引取行為は輸入に該らないと主張する。しかし所論指摘の関税定率法第一四条第一〇号第一四号の場合は輸入には該るが、関税を免除するに止るから、本件が輸入に該らないとの所論の資料とはなし難く、被告人らが真に輸出の意思がなかつたならば当該税関にその旨申出で輸出許可の取消を得てから合法的に該貨物を引取るならば、それは輸入ではなく、従つて関税は免除せられる事情にあるものと認められるから、被告人らがその方法をとらないで税関の許可なくして不法に引取つた以上、無許可輸入の規制を受けることがあつても蓋し止むを得ないことであろう。縷述の所論はひつきよう関税法第二条第一一一条の規定を正解せざるに因るものというの外はなく、もとより採用できない。論旨は理由がない。

同第三点について、

しかし原判決挙示の関係各証拠を総合するにおいては優に原判示事実中無許可輸出の全事実を認めるに十分である。所論に鑑み記録を精査するも、原判決の事実認定に過誤ありと思料すべき本由は毫も発見できない。従つて所論は採用しない。論旨は理由がない。

同第四点について、

所論に鑑み、本件記録を精査検討するも、本件各犯行の動機、態様、回数、違反の物資価額、利得額、罪質その他記録に現われた諸般の各犯情に照らすときは、所論を十分考慮するも、被告人らに対する原審の科刑は相当であつて、減刑又は刑の執行を猶予すべき犯情は見当らない。

よつて刑事訴訟法第三九六条に則り主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 児島謙二 裁判官 畠山成伸 裁判官 瞿曇)

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